誘拐、また誘拐!?恐ろしく頭が切れるJK探偵がすべてをひっくり返す!ミステリーとして論理的であっと言わせるトリック満載で、人間として考えさせられるストーリーもあり、社会的な問題にも鋭く切り込んでくるという歌野晶午さんワールド全開のミステリーです。
あらすじ
高校を中退し、絶賛引きこもり生活を送っていた由宇は、自室の窓から隣家のベランダに放置されている幼児を発見しました。それから隣家を注意深く観察することにした由宇は、ある結論に至ります。「あの子は虐待されている」と。
由宇はとっさの思いから行動し、幼児を自宅へ連れてきてしまいます。これって誘拐!?しかし、その後、その幼児、パールちゃんは何者かに再び誘拐されてしまうのです。由宇は、幼馴染であり、昔、探偵として数々の事件を解決してきたと名高い少女、舞田ひとみに助けを求め、ひとみは見事に誘拐犯を見つけ出してしまいます。
しかし、これは、物語の序章に過ぎません。その後、突如起こった連続幼児誘拐事件において、またもやパールちゃんは誘拐されてしまうのです。犯人から来る不可解な身代金要求のメッセージや次々と出される被害者を攪乱させるような指示の意図とは?何者かによる計画的犯行を警察は見破ることができるのか。果たして幼児たちは無事に戻ってくることができるのか。
解決に向かったかに見えた事件を、JK探偵、舞田ひとみが全部ひっくり返す!あまりにも酷くやるせない結末に、由宇はなかなか立ち直れません。
悲しい現実を受け止めて進むというような感じで終わるかと思いきや、ここで終わらないのが歌野さん!ぶっこんでくる、ぶっこんでくる(笑)舞田ひとみの推理劇は終わらない!あの手この手を使って迷える友人のために、今度こそ最後の奮闘です!
「葉桜の季節に君を想うということ」でまさかのトリックとストーリーの緻密で且つワクワクが止まらない設計に圧倒された私ですが、本作も一気に読んでしまいました。600ページ以上あるのですが、読む手が止まらない…(笑)
歌野さんが仕掛ける緻密で大胆なトリックを皆さんは暴けるでしょうか。ひとみちゃんの絶対に諦めない推理&冒険譚をぜひ堪能してくださいね!
感想
舞田ひとみは人間の本質を見抜く強くて優しい女の子
端的に申し上げますと、ひとみちゃんのファンです。いや、こんなに強くて優しくて自分の中にきちんとした周りに流されない考えを持っている女子高生っていないですよ、普通。というか大学生にも社会人にもなかなかいない。
辛いこと、苦しいことをたくさん乗り越えたからこそ、普通ではない家庭環境で育ったからこそ、この物語に出てくる逞しく、自立したひとみちゃんが生まれました。彼女の言うことはいつも正論を得ていて、人間の本質をついていると思います。
現実は悪化していてもいつだって自分の都合のいいように物事を解釈してしまう人間の弱さや、自分の身を守るためなら犯罪に手を染めてでも偽善者になって騙そうとする悪人がいること、罵詈雑言を浴びせかける中に含まれる弱さと信頼など、人間の表面を見ていたのでは分からない本質を理解しているのです。だから、どんな小手先のテクニックもひとみちゃんを暴くことはできないのです。
そして、その人間の本質を見抜く力は、彼女の由宇を救う優しさへも繋がっていきます。あまりネタバレはしたくないので控えますが、最終章では、こちらも複雑な家庭事情を抱えている由宇のある問題を解決するために、ひとみちゃんは頭と体をフル回転させて調査をします。普通、友達にそんなにするかっていうくらいに。
ひとみちゃんは超合理的な性格だけれど、由宇が内面に抱えている重しを実は一番理解して、友のピンチのために奔走するんです。強さと優しさを兼ね添えたひとみちゃんのキャラクターが大好きです。
繰り返される謎と最後にひっくり返される残酷な結末がすごい
そして、なんとしても、謎が一度で終わらず、二度、三度と繰り返されるワクワクする展開と、結末をひっくり返す流れがたまりません。誘拐、また、誘拐。どうなっちゃうのだろうとドキドキする読者のもとに、刑事たちの様々な憶測が飛び交います。
その段階から楽しいのですが、その繰り返された誘拐が示す残酷な動機が、鮮やかに示されたときには、さすが歌野さんだと思いました。
決して諦めないJK探偵が解き明かす事件の謎。頼もしいひとみちゃんと一緒に、皆さんも一緒に解いてみてはいかが。
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