ホワイトラビット|伊坂幸太郎|誘拐犯、泥棒、警察。スリル満点の騙し合いが今、始まる!

ホワイトラビット

あらすじ

誘拐犯の妻が誘拐された!?仙台の住宅地で起こった、起こした?人質立てこもり事件。なぜかそこに巻き込まれた泥棒を生業とする男やオリオン座の蘊蓄大好きなコンサルタントオリオオリオ、かつて大切なものを失った敏腕警察官、人質とされた一家も訳ありで!?騙し騙され進んでゆく物語の結末とは?きっとあなたも騙される。スリル満天、スピーディーな伊坂マジックの世界へようこそ。

感想

今回は本作に出てくる大好きな名言を紹介したいなと思います。

盗みを生業とする黒澤の機知に富む発言とどんな時も先を見据え、冷静沈着に対応する落ち着いた行動力、それから他人に無関心のようでいて情に厚い性格が私はとても好きです。黒澤は伊坂さんの他の作品にも出てきますが、その度にやはりこの人いい!人間として出来てる!泥棒だけど!と思っています。ここではそんな黒澤の名言集の一部をご紹介します。

「人間というのは集団で生きているからな」黒澤が言う。
「ルールを守ることに関しては敏感なんだ。ルールは自分たちから自由を奪う。ただ、そのルールによって秩序が、集団が守られている。ルールを破りたいが、破らないように、と昔から教え込まれている」
「誰に教え込まれたんすか」
「渡り鳥に、渡る時季を教えたやつだろうな」本能、と口にするのは大げさに感じ、黒澤はそう言い換えた。

自分とは無関係なのに、理不尽ないじめをしている人や自分の私欲のために人をだましている人を見ると腹が立つのはなぜだろう?という疑問に黒澤がこう答えています。集団として生きるために守るべき秩序に歯向かう人には本能的に怒りを感じるのが人というもの。集団を聞きに陥れる可能性があるし、なぜ自分は我慢して従っているのにお前はルールを無視してよいことになるんだという苛立ちもあります。本能、と答えないで使うこの思い付きの比喩も黒澤の頭の良さを伺わせます。こんな風に、伊坂さんの作品には、ある種哲学的な人間の本質をつくような疑問に対する伊坂さんなりの答えが散りばめられています。これらの解釈が正しいかどうかということは問題ではなく、私は、伊坂さんの解釈の仕方、表現の仕方がとても味わい深くて好きなんです。

続いて、オリオン座の一つの星、ペテルギウスが既に爆発していて、640年前にそれが起こっていたなら今日にでもその爆発が見えてしまうかもしれない、という宇宙の壮大な話をした後で、黒澤が言った発言。

「すでに起きてる出来事も、時間がずれないと見えないわけだ。」

そのままじゃん!と思うかもしれないけれど、この一言は、この物語をそのまま表している言葉であり、まさしく、警察、籠城犯、泥棒、と互いの騙し合いの中で、「今起きている出来事なのに、今は真実が見えていない」という面白い状態が起こるのです。これこそ、伊坂さんのエンターテイメント。時系列が進んだり戻ったり、語りてがコロコロと変わったりする中、ページをめくる手はスピーディに進んでいくのに、あのひと時を違う時間から、様々な立場から描いている筆致の巧みさ。やっぱり伊坂さんの本ってワクワクが止まらない。

本作には、夏之目警部という真摯で頼れる警察官が出てくるのですが、彼とその娘の会話にもこんな名言が。

「あれか、宇宙の歴史に比べれば、俺たちは塵のような」
「それもまたいいよね。轟々とすごい早さで流れていく時間の中で、そのほんの一瞬の間で私たちは生きて、一喜一憂したり、遊んだり、勉強したり、働いたり、恋愛したりするんでしょ。凝縮されているというか、充実しているというか。」

星の命、太陽の命、宇宙の何十億年という歴史を考えたら、人間の文明のちっぽけさに少し恐ろしくなると共に、その儚い一瞬の中で自分たちは懸命に生きているという美しさに感動を覚えます。こんな一瞬の時の中でも、私たちは毎日誰かと笑い、何かに深く悩み、大切なものを抱え、愛する生活を送る。それを遠い遠い宇宙の果てから眺めてみたらなんて美しいんだって感じました。

そして、本文に何度も登場する『レ・ミゼラブル』の引用を用いて、夏之目の娘は、こんな話もします。

「海よりも壮大な光景がある。それは空だ。空よりも壮大な光景がある。それは人の魂の内部。人の心は、海や空よりも壮大なんだよ。その壮大な頭の中が経験する、一生って、とてつもなく大きいと思わない?」

生物学に詳しいわけではないので、他の動物のことは良く分からないけれど、こんなにも豊かな心を持ち、だからこそ壊れやすいけれど、その分、心の琴線には日々たくさんのものが触れ、一喜一憂しながら生きていく人間の頭の中ってすっごく奥が深くて壮大だって、この話を聞くと思っちゃいます。余談だけれど、だからこそ、本を死ぬまでにたっくさん呼んで、もっともっと色々な人の立場から、色々な人生の物語を経験し、新しい世界を見たいなって思います。伊坂さんの話に出てくる泥棒の生き方なんて無論、現実世界では絶対に経験できないし、したくありませんからね(笑)
それから、その後の場面で語る、夏之目の心の言葉。

“人の本心を見極めるのは難しい。何しろ、空や海よりも壮大なのだ。内輪の、親しい者の間で喋っている言い回しが本音かと言えば決してそうではなく、むしろ、仲間の前で自分を大きく見せるための虚勢、ということも多々ある。”

まさにその通りだって思います。その人の態度、口にした言葉=本音なんていうことの方が少ないのではないでしょうか。人間ってそんな単純じゃないんだよなって日々気づき、後から後悔することもあります。そもそも自分だって自分の本音が何なのか分からないこともあるし、こんな風に言うつもりではないのに、という形で言ってしまったり、そういう意味じゃないのにっていう風に伝わってしまったり、もどかしいことの方が多いです。
だからこそ、いつだって相手目線で物事を考える努力をすることは大切だと思いますし、自分の気持ちを分かってくれるっていう奇跡的な人がいると心から救われた気持ちになるものです。
そして、読書好きの方って人よりもたくさんの世界を見て、他者の語りをひたすらに傾聴し自分なりに解釈していける方が多いので、海や空よりも壮大な人の心を理解することにたけていることが多いな~と思うのは気のせいでしょうか。

他にもたっくさんの名言が登場するので皆さんも見つけてみてください。そして、ストーリーがなんといっても面白い。読者の心を分かっていらっしゃる伊坂さん!我々の心を掴む天才のお話を一つ、秋の夜長に手に取ってみませんか?

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