「人間はいつか必ず死ぬ」この事実をあなたは本当の意味で理解していますか?死というものは人間にとってとても怖いことだから、深く考えていたらきりがありません。でも、「死神の精度」では、そんな人間にとってとても怖い「死」が間近に迫った人々の人生を覗き見ることで、死ぬこと・生きることについて新しい視点を得ることができます。人間の本質を突く伊坂ワールド全開の一作です。
あらすじ
この物語の主人公は死神です。彼に会った者は出会った日から8日目にほとんどが死にます。というのも、死神の仕事は、ある人間と7日間話したり、共に時間を過ごしたりし、その人間が死ぬべきかどうか判断し、「可」か「見送り」かどうかを上へ伝えることであるからです。そして、大抵の場合は「可」の判断となります。
といっても、この物語の主人公である死神は、死神の「調査部」の一人であり、所謂言われた仕事を黙々とこなすサラリーマンのようなもの。人間についてそれほど詳しくなく、対象者の情報も限られたことしか知りません。死神の「情報部」から仕事の対象者に関するごく限られた情報だけを頼りに、対象者にもっとも接近しやすい人間の見た目へと変身し、接近を試みます。
この小説は6篇の短編小説からなっており、どれもが、そんな死神が対象となった人間と過ごす一週間の日々を綴っています。死神という生死や時間の概念を超越した存在の視点から垣間見るそれぞれの人生は、人間の愚かさや弱さ、優しさ、儚さを描き出していて、気づかされることが多いです。また、伊坂さんの小説ではいつも「善と悪」という曖昧な概念について少なからず描かれていると思いますが、本作でも、当たり前の概念を払拭するような死神の発言が多く、人間の作った規則や基準がいかに意味のないものであるかと驚くこともあります。
クールで、でもどこか親しみやすさのある死神が語る6つの人生。人間に興味のある方ならきっとお楽しみいただけるはずです。
感想
推理小説みたいなエンターテイメント要素も
「死神の精度」の各短編は、生きること・死ぬことについて考えさせられる内容であると同時に、その人の人生のある謎が最後に解き明かされる推理小説のような楽しさもあります。
会社の問い合わせ窓口からの苦情処理係をしている女性への悪質クレーマーの真の目的とは?「弱きを助け、強きをくじく」やくざ、藤田は最後まで「負けない」のか?密室の雪山山荘での最初の死者の犯人は誰なのか?ブティックで働く美男性がダサいメガネを外したがらない本当の理由とは?人殺しの男が抱えていた幼少期のトラウマの正体とは?美容院のおばあさんが急にお客さんを4人集めてほしいと死神に頼んだ理由とは?
6つの物語に6つの人生。6つの物語に6つの謎。人間の奥深さを感じると同時に、エンタ-テイメントとして楽しめる作品です。
「生きること」を励ましてくれる名言
「人生は短いんですから。何もないよりは、何かあった方がまだいいです。最高ではないけれど、最悪じゃない。」とブティックで働く男性はいいますが、素敵な言葉だと思いました。生きていれば絶望を味わう瞬間もあるし、絶体絶命じゃん!って思うこともあります。大切な人に裏切られたり、会社で理不尽な目にあったりすることもあります。でも、「何もないわけじゃない。何かある方がいい。」って私にとっては、とても勇気づけられる言葉でした。
最終話に出てくるおばあさんは、不幸だらけの人生を送っている人の話を聞いて、「その人たちは死んだの?」って問いかけます。そして、「幸せか不幸かなんてね、死ぬまで分からない」「一喜一憂してても仕方がない。棺桶の釘を打たれるまで、何が起こるかなんて分からないよ」って言います。
2人の言葉を聞くと、これはどうにもならんぞ!って思ったときでも懸命に生きようって思えますよね。
くだらない浅はかな人間。しょうもないことで悩む人間。でも、強い信念を持っているカッコいい人間、当たり前だけど大切なことを分かっている人間。色んな人間に、色んな人生に触れることができる一冊。ぜひ読んでみてくださいね!
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