あの夏が飽和する|カンザキイオリ|生きたい。愛されたい。死んじゃいたいけど。

あの夏が飽和する

あらすじ

「千尋。あんただけは生きて。生きて、生きて、そして死ね」

 

どうしようもない事情を抱えた二人の少年少女は、中学生の頃に共に逃亡生活を送っていました。千尋と流花。彼らは限りなく絶望に近い場所にいて、共に死ぬまで生きようとしていました。しかし、流花は、ある夏、千尋を残して自ら命を絶ってしまいます。その頃から13年経った今も千尋は、流花の存在を背負い、前に進めずにいました。

 

「あの夏の日々は、君の笑顔と、無邪気さとともに、僕の中で飽和していくんだ。

君と会える日をずっと待ってる。

絶対、戻ってきてくれよ。

流花。」

そんな時、千尋は流花の生き写しのような女子高生、瑠花に出会います。父子家庭に育つ瑠花は、愛する父が自分を必要としていない、自分を見てくれない、という寂しさから、出会系サイトに登録し、見知らぬ男とセックスを繰り返す荒んだ日々を送っていました。そんな瑠花と千尋は、寂しさを埋めるため、そして、流花の生き写しとして共に過ごすため、付き合うことになるのですが、しだいに互いを愛するようになっていきます。瑠花のもとに次々と降りかかる心がぐちゃぐちゃになるほどの災難を彼女は乗り越えられるのか。千尋は、そんな彼女を救うことができるのか。

 

瑠花の同級生、武命は、機能不全の家族のもとで暮らし、へらへらと笑いながらも絶望的な気持ちで毎日を送っていました。誰も分かってくれない閉じ込められた世界での苦しみ。自分ではどうしようもできない現状。かすかに望んでいる幸せな家庭での生活。武命は、ある日のある出来事をきっかけに、彼らを殺すことを決意します。皆殺して、自分も死ぬ。破滅的な考え方となった武命は、狂気的な行動をするようになっていきます。

 

瑠花、千尋、武命。三人はそれぞれが溺れる海の中から這い出すことはできるのか。胸にぐさりぐさりと突き刺さる剥き出しの感情を表す言葉たちにページをめくる手が止まらない青春サスペンスです。今注目のアーティスト、カンザキイオリの衝撃のデビュー作。

読まなきゃ勿体ない!です!

 

感想

“後悔しない選択をする。自分が正しいと思ったことをする。おかしいと思ったことや、このままじゃいけないと感じたことをそのままにしてはいけない。”千尋はそう瑠花に伝えました。でも、人って追い詰められれば追い詰められるほど、逃げ場がなくなればなくなるほど、もう破滅意外の選択肢はないと思い込んでしまうものです。自分が我慢するしかない、自分がいなくなるしかない、この現状からは抜け出すことができない。自分起点の考え方が少しもできなくなってしまうから、この気持ちは自分以外には分からず周りの人には一蹴されてしまうと思うから、誰にも相談できなくなってしまい、どんどん孤独を深め、現状は悪化していってしまうのです。

 

この小説には、そんな絶望的な状況に陥った二人の高校生の心の叫びが生々しい言葉で綴られています。死にたくてしょうがないけど、生きている意味なんてないけど、死にたくないし、もっと愛されたい、幸せになりたい。崖の淵をずっと歩いているようなとても危うい物語で、しかし、弱弱しくなく、むしろ心の奥にある、生きたい、幸せになりたい、自分らしく生きたいという強く必死な想いがエネルギッシュに感じられます。

 

“大丈夫。私たちは皆弱い。皆何かを抱えてる。でも、たとえ狂気にまみれようがなんだろうが、私たちはどんなに失敗しても立ち直ることができるんだ。

もしかしたら、この先乗り越えたとしても、何度も過去が頭の中でフラッシュバックして、やるせない思いで苦しい日々が続いていくかもしれない。でもそれは、目の前の問題から目を背けていい理由にはならない。

私は負けたくない。

戦うんだ。”

 

瑠花は強い。武命も千尋も。問題が山積みでも、他人を傷つけたくないから自分を抑えて自分を傷つけて、一人闇の中に入ってしまいます。狂気的なまでに。でも、最後には立ち向かい、乗り越えようとします。私にはできなかったことだから、すごくカッコいいと思います。そして、最後には一人じゃないって思えるようになったのは本当に大きい。

 

皆さんも、鋭くてリアルな言葉の波に溺れてみませんか。きっとあなたの心にも忘れがたい感情が飽和していきます。

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