江國香織さんの小説は日常を美しく繊細に、しかし飾らずに描写したものが多いですね。「赤い長靴」はそんな江國香織さんが描く安心感と孤独感という相反する感情に包まれた夫婦生活の日常を場面を切り取って綴ってゆく連作短編集です。江國香織さんのお話は、いつも日常を描いているのに、どこか浮遊したような現実離れしたような感覚にもさせます。
「こんな夫だったら嫌だ!」なんて感じる女性もいるかもしれませんし、妻である日和子に共感する方もいるかもしれません。どんな風に感じるにしろ、ふと垣間見ずにはいられない夫婦の日々の生活を描いた物語です。
Contents
あらすじ
結婚10年目、子供なしのある夫婦の日常を描いた物語。普段は無口だけれど、夫、逍三の前ではよく話し、よく笑う日和子と、「うん」とか「ああ」とかしか言わず、常に無口な夫、逍三の会話を中心としたお話です。
こんな方にオススメ
美しくちょっぴり怖い夫婦の日常を覗いてみたい方へ。
色々な夫婦の形があると思いますが、皆さんはどう感じるでしょうか。夫婦って血も繋がらない赤の他人が一つ屋根の下で暮らすという様々な人間関係の中でもとっても不思議で答えのないものだな~と個人的には思います。最も近いようでいて、常に孤独と隣り合わせの関係、もしくは一緒にいてもどこか孤独からは離れられないという関係。そんなちょっぴり怖い感覚を美しく表現したのがこの「赤い長靴」という本だな、と感じました。
感想
日和子はくすくすとよく笑いますが、「日和子にとって、泣くことと笑うことはよく似ている。」のです。二人でいるとき、二人でどこかへいくとき、話す役割をするのは日和子。けれども、逍三は全く日和子の話を聞いていない。「うん」と「ああ」という返事。それは昔からだし、これかもずっとそうでしょう。日和子は怒ったり悲しくなったり、孤独に感じたりもするのですが、一方でこの逍三との日常のみが自分にとって安全で安心できるものなのだ、ということも言っています。
私にはこの日和子の感情がよく分かるように思います。二人でいても、相手には私という話し相手がおらず、自分の頭の中の世界を吐き出しているにすぎない人。そして、その人は私の話を聞かず、ちぐはぐな返答しか返ってこない。でも、私を心底大切に思ってくれている。
「逍ちゃんは私を『世間』から守ろうとしてくれるけれど、私のいうことは聞いていない。私の返事は聞いていなくて、それでも私に向かって喋っているのだ。」
これに似た感覚が分かるな~と思いました。うんざりする、でも幸福な日常である、そんな日々。
夫婦って血も繋がっていないのに人生の最も長い時間を共にする不思議な関係。ずっと一緒にいるのに、完全には理解できないどころか知らないことだらけの奇妙な関係。「結婚」や「夫婦」について思いを巡らせてみたくなる江國香織さんの美しくちょっぴり怖い物語。ご賞味あれ。
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