ネバーランド|恩田陸|4人の少年が抱えるそれぞれの「秘密」を明かすとき。

ネバーランド

あらすじ

舞台は伝統的な進学校の男子寮「松籟館」。冬休みになると多くの生徒が帰省する中、様々な事情を抱えて寮に残ることを決めた居残り組の4人は、共にご飯を作って食べたり、ゲームをしながら晩酌をしたり、テニスをしたりと緩やかな共同生活を送っていきます。そんな4人は皆それぞれにある「秘密」を抱えていました。「告白」ゲームを皮切りに明らかになっていくそれぞれの抱える重い秘密とどんどん深まっていく謎。やがて、孤独で自由な4人だけの暮らしの中で、真実が見えてきて、彼らはそれぞれが抱える鉛をその背から降ろして、前へ進んでいくのです。誰もがきっと彼らのその後を知りたくなる。切なさとノスタルジーに満ちた青春ミステリー。

感想

懺悔大会の始まりと恩田陸さんの作風

イブの夜に始まった懺悔大会のルールは、その話の中に一つだけ嘘を混ぜること。そのルールのもと、まず統が自分の幼少期のトラウマについて話す。
こんな風にしてそれぞれの少年の告白が始まっていきます。

自分の過去の謎を告白していく。そして、その謎は気の置けない友人たちに話していくうちに新たな部分が分かってきて、自分は一皮向けて明日を違った風に迎えるきっかけとなる。
このような物語の描き方は恩田陸さんの小説にはよく見られるものであり、自分の胸にしまわれていて、どんどん自分で作ってしまっていた過去がある種、打ち砕かれるような感覚は爽快です。そして、一つの事象に色々な解釈があって、どれも正解でないし、真実なんて一つじゃないという考え方が恩田さんの作品の根底にあることが多くて、そんな考えが本作に現れている部分もあるかと思います。

「女」へのトラウマを抱える少年たち

この作品では、「女」に対するトラウマを抱えた少年たちが多く描かれており、彼ら少年からみたそれぞれの女像や、少年独特の感性で語られる結婚や家庭への価値観が新鮮で興味深いです。例えば、自分に属するものだ欲しいから特に女は子供を欲しがるんだという寛司の考えは、一見暴論にも思えるものの、納得できるところもあります。

また、いつもきちんとして頭がよく面倒見がいい自立した男、光浩が時折見せる冷徹な瞳の正体が明らかになったときの衝撃はとても大きかったです。どの少年の告白話も、胸に迫るものがありましたが、彼のそれは、いつもゆったりと気丈に振舞う彼の身に起こったことだからこそ、生々しさとどうしようもない現実のやるせなさが際立って、胸を突かれる思いでした。
酷い仕打ちをした大人たちは、光浩のことを何も考えていないのではなくて、彼をしっかりした自立した大人だと思って甘えているからこそ、身勝手にしてしまうのだ、という寛司の考えにも納得がいきました。(寛司には納得させられてばかり。それくらいいつも芯を突いた発言をする頼りがいのある男なんです(笑))

共犯関係が生み出す独特の雰囲気

“この雰囲気のせいかな、と思う。この雰囲気―この、共犯関係のような雰囲気。なぜか、この4人でこうしていると、するりと口を滑らせてしまう。心の中にしまっておいたことを口に出したくなってしまう。誰かの秘密を聞いたことで、自分の秘密も話さなければならないような義務感が心のどこかに生まれてくる。みんなそのことに気付いているはずだ。”

美国がそう表す空気感。本当にたまらなくワクワクします。

皆さんも、この雰囲気を味わってみては?

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