あらすじ
風が丘高校の旧体育館のステージで発見された放送部部長の刺殺体。ステージへと繋がる扉はすべて鍵が掛けられているか、人目が常にあり、なんと“密室”でした。その密室で唯一被害者と二人きりになれた卓球部部長の佐川にかけられた疑いを晴らすため、卓球部の後輩である柚乃は、アニメオタクのダメ人間でなぜか学校の部室に住み着いている!?という学年成績トップの噂の天才、裏染天馬のもとを訪れます。
裏染は、警部も刑事も気づかなかった些細な違和感から論理的に回答を導き出していき、一つの揺るぎない結論にたどり着きます。現場に残された一本の黒い傘。あなたはこの一つのヒントからどれだけの考察ができるでしょうか?作者の緻密な論理展開に頭が上がらないエピローグまで魅力が詰まった渾身のデビュー作です。
感想
現場に置かれた一本の傘から容疑者にかけられた疑いを晴らし、ハウダニットの観点から犯人を緻密に論理的に絞ってゆく様は圧巻でした。一人ひとりの登場人物たちの容姿や性格に関する描写からそれぞれの個性や魅力があふれ出ていて、学園物語としてフレッシュで清々しい雰囲気も纏いながら、そのようなまさしく「本格派」と呼べるミステリーの美しく最後まで飽きさせない起承転結の展開を持ち合わせた本作が、青崎さんのデビュー作とはなんとすごい作家さんなんだろうと思いました。
なんといっても、裏染の些細な事象から隠された事実を見つけ論理的に積み上げてゆく推理が圧巻なんです。なぜ、あの場所は濡れていなかったのか、なぜあの人物は発言を否定しなかったのか、なぜポケットに入った物のバランスが悪いのか、なぜすぐにDVDは起動したのか、なぜ、なぜ…。そういった疑問に気づき、答えを導き出せるのは、想像力豊かな仮説とそれを検証する行動力ではないでしょうか?
同じく鮎川哲也賞を受賞した市川哲也の「名探偵の証明」シリーズでも、「想像力」は名探偵に必要な三つの要素の一つでしたが、裏染くんをみているとまさに、その通りだな、と。解説を書いていた辻真先さんも、「あのホームズが、たとえば靴の泥やらネクタイの曲がり具合、襟の汚れといった細部から類推して、相手の職業や性格を見抜く名探偵お馴染みの場面を、裏染天馬は一本の傘をめぐる推理に変奏して読者に提示してみせたのだ。」と言っていたように、本当にホームズのような観察眼をお持ちでして、アニオタの引きこもりのくせにカッコいい。かといって自分にそれができるかと言ったら、本当にだめだめで、いつも通り探偵に憧れるただの一般人なのでした…うう、悲しい(笑)
でもでも、彼が持つような想像力や観察眼って、探偵じゃなくても持っていて損はないというか、得しかないなって思います。相手の状態や心情を察して、その場の状況を瞬時に察して行動できるって、人間としてとってもできているなーって。探偵にはなれないけれど、そんな風な気配りができるような、周りに目を向けられるような人になりたいものです。
裏染くんってそんな優しい一面も実は持っているのが垣間見えるし、それだけじゃなくて、アンフェアな人生を知っているからこそ、情に流されず強く芯のある自分を持っているところもあるんです。そう考えると、裏染くんって、探偵って、少々難ありだけど、私にとっては、尊敬に値する人物とも言えるなーなんて脱線した話をしつつ、今回は終わりにしたいと思います。
とにかく、皆さんに読んでほしい!な。
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