麦の海に沈む果実|恩田陸|閉ざされた学園で「自分自身」を見つける物語。

麦の海に沈む果実

「麦の海に沈む果実」を簡単に言うと、学園もののダークファンタジーというところでしょうか。実際のところ、そんな簡単に言い表してしまうにはもったいない作品で、現実と記憶や幻想の世界を自由自在に操り、現在と過去、未来という時間を巧みに使って読者を楽しませる恩田陸さんにしか書けないジャンルの作品だと思います。

この学園ってどんなところ?

  • 湿原の中にひっそりと佇む緑の丘。そこにあるヨーロッパ風の古く立派な建物の数々。そこは世間から隔絶された不思議な学園でした。この学園に入るには相当なお金が必要ですが、その代わり、世界的に見ても珍しい教育水準の高さを誇っており、どんな専門分野でも一流の講師がおり、図書館にはあらゆる書物が揃っているなど、義務教育にとらわれない自由なカリキュラムを提供していました。
  • 敷地は生徒数に対して非常に広く、立派な中庭や食堂があり、建物もレンガ造りでとても趣があります。しかし、通路はどこも入り組んでいて迷路のようで、まるでこの学園の全貌を生徒に知られないようにわざとそうしているんじゃないか、何かを生徒から隠すために複雑な構造になっているんじゃないか、と思わせる怪しい造りになっています。
  • 全寮制のこの学園では、二人でルームシェアを行い、それ以外にもファミリーという制度があり、学年を縦割りで分け通常12人のグループを作り、その名の通り家族のように過ごす仲間がいます。
  • この学園には、様々な事情を抱えた生徒が入学してきます。彼らは、その入学理由は、次の三つに分けられます。とにかく過保護で、環境の整った上品なところに入れたいって親が思って連れてこられた「ゆりかご」、スポーツ関係者や音楽関係者など特殊な職業に就きたくて技術を磨く「養成所」、存在を望まれず、家庭の事情があって入れられた「墓場」。大半の学生はこの「墓場」に分類されます。
  • この学園は、「三月の国」と呼ばれ、三月以外の転入生は破滅をもたらすという伝説があります。

感想

学園ものダークファンタジー&ミステリー

主人公である理瀬の設定がとても魅力的で、本作は、彼女が抱える自分は何者なのかという謎が少しずつ解き明かされていく、驚きに満ちたミステリーとも言えます。

不思議いっぱいの閉ざされた世界の中で、自分だけがなぜか異色の存在であるが、その状況が分からない理瀬は、ルームメイトである憂理やファミリーである聖や黎二、転入生のヨハンたちとの日々を過ごす中で、何度も恐ろしい事件や不可思議な出来事に遭遇します。

理瀬は、彼らとの日々を楽しみつつも、降り掛かる災難により、自分をどんどん見失ってしまいます。と、同時に自分を構成するピースが少しずつ心の奥で明らかになっていくのです。

途中途中で思いがけない事実が判明していき、もどかしくなっていくところも、結末で読者を驚かせると共に、伏線を回収して納得させるところも読みごたえがあって面白いです。闇がありながらも、力強い結末は個人的にとても好きでした。

登場人物に引き寄せられる!

この作品の登場人物たちはとても魅力的です。主人公の理瀬は表立って前にでるタイプではないけれど、とても聡明で美しく、いつも本を読んでいるような女の子。落ち着いていて芯が強い。人の観察力に優れており、想像力が豊かで、感情を読み取るのが得意。男女関係なく、彼女のどこかミステリアスなキャラクターに虜になる人は多いのではないでしょうか。

そしてこの物語の主要人物の一人である美男子、黎二。黎二もよく本を読み、誰かと群れることはなく、どこか斜に構えたところのある男の子です。信頼する者には心を開き、心を許した者に対しては、静かだけれど強い愛情を持ち、ピンチのときには守ろうとする、実は正義感の強い黎二。理瀬が困ったときにもいつも安心感を与えてくれる黎二は、優しすぎるところがあって、冷静でない行動をとってしまうこともあります。私は完全に黎二のファンになりました(笑)

次に、理瀬のルームメイトである憂理。舞台女優を目指している彼女は、とてもハキハキしていて男勝りなところがある女の子。スタイルよし、顔よし、姉御肌で面倒見も良い。憂理ファンの方も多いのではないでしょうか?(笑)学園のことが何も分からず転校してきた理瀬に色んなことを教えてくれて辛いことがあるといつも寄り添ってくれます。

そしてなんといっても、この学園の支配者である校長先生のキャラクターは印象的です。校長の言うことは絶対であり、発言にそうさせるだけの説得力と威厳があります。「欲張りで、知らないことが嫌い」な校長は、知識が豊富で何でも許容範囲内という風に解決する余裕があります。終始、理瀬自身が知らない理瀬の秘密を知っているような素振りを見せるところが学園の闇の深さを思わせるようでドキドキします。

 

その他の登場人物も皆キャラが立っていて、そんな彼らが閉ざされたこの学園という空間で噂をしたり、人間関係を気づいたり、裏切られたり、疑心暗鬼になったり。そんな学園ものの面白さが存分に味わえます。

ダークで不穏な空気感にハマる!

「麦の海に沈む果実」に漂う独特の雰囲気や世界観に終始引き込まれていました。物語の世界から抜け出せないとはまさにこのこと。ダークで不穏な雰囲気であるにもかかわらず、世間離れした作り物めいた空間を、魔法の世界に迷い込んだ子供のように、わくわくしながら味わうのはすごく楽しい時間でした。読み終わったときには、ああ、この世界はもう終わってしまったのか!ととても残念な気持ちになりましたね。

「麦の海に沈む果実」は、「三月は深き紅の淵を」の第4話とリンクしており、また、「黒と茶の幻想」、「黄昏の百合の花」も登場人物が共通しているなど、この小説が好きな皆さんなら全網羅して楽しめると思います。恩田陸さんのこのシリーズのちょっと不穏で独特な空気感に私はハマっちゃいました。

 

大好きな恩田陸さんの作品の中でも特におすすめできる作品です!ぜひお手に取ってみてくださいね。

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