木曜組曲|恩田陸|5人の女たちから次々と明かされる天才小説家の死を巡る謎

木曜組曲

あらすじ

まるで鳥かごのような独特の空気感が流れ、そこだけ時間の流れが違うような別世界のような感覚になる白い洋館に、今年も5人の女たちが集まります。この白い洋館は4年前に謎の死を遂げた天才耽美派小説作家、重松時子の自宅であり、彼女の命日である2月の第二週目の木曜日を挟んだ三日間、毎年彼女と関わりのあった5人の女性たちはこの洋館に集い、飲食を共にし、話に花を咲かせるのでした。

ところが今年はいつもと少し様子が違います。今まで触らずにいた時子の死を巡る謎が氷解しようとしていました。不気味なメッセージと共に突然送られてきた美しい花束。次々と思い出され、語られるあの日の真実。ノンフィクションライター絵里子、流行作家尚美、純文学作家つかさ、編集者えい子、出版プロダクション経営者静子。“他人を観察し分析し料理するのが得意な女たち”は、お互いの言動や行動から胸中を探り合い、あの日の真相に近づいていきます。

時子の死は自殺か、それとも他殺か。聡明な5人の女たちから明かされていく真実と背負う結末をどうぞお楽しみに。

 

感想

次々と暴露されるあの日の真実

本書の見どころは何と言っても、衝撃の事実が次々に5人の女性の口から語られていき、その度に真相に近づいたり、また、複数の解釈が出て来たりと、一瞬たりとも退屈な時間なんてないミステリーであり、その中に、聡明な5人の女たちの芯の強さやしたたかさが余すところなく表れているところではないでしょうか。彼女たちの証言には証拠がありません。妄想を生業としているようなものである彼女たちによる虚構の話かもしれません。でも、そもそも一つの物事に対して、様々な解釈があるのが世の中であり、一つの真実なんてないのが普通であるように、妄想上手の彼女たちの会話が折り重なって生まれていく一つの結論が果たして時子のものと一致するかは謎のままです。でも、その過程がとっても面白い。そして、彼女たちは全員最初は話すのをためらうものの、一旦決意すると、その内面の強さが現れ、はきはきと持論を展開していくのがすごくカッコいい。

 

小説家の老いと苦悩を5人の女たちの視点から

そして、耽美派小説の巨匠である時子の老いと衰退していく苦悩と絶望、かつての栄光と最後まで持ち続けた己の天才としての自負を彼女たちの視点から描いていく様も魅力的でした。

“木曜日が好き。大人の時間が流れているから。丁寧に作った焼き菓子の香りがするから。暖かい色のストールを掛けて、お気に入りの本を読みながら黙って椅子にもたれているような安堵を覚えるから。木曜日が好き。週末の楽しみの予感を心の奥に秘めているから。それまでに起きたことも、これから起きることも、すべてを知っているような気がするから好き”

そう歌うように言う時子は、美しいものをこよなく愛し、それを巧みに言葉にする力を持っており、自分の文章を綴る行為に誇りを持ち、才能のある作家として5人の女たちに与える影響力を自分が持っていることを自負していました。それなのに、だんだんと自分は書けなくなってゆく。彼女たちにそれを気づかれ、指摘され、自分の衰退を感じつつも受け止めきれない苦悩。心が痛みました。また、それを語る彼女たちも苦しかっただろうと思います。

そんな時子を女たちは慕い、恐れ、尊敬しており、いつまでもその影は消えない。女たちはそれぞれこの4年間、お互いにずっと抱えてきた時子との秘密や確執を胸に秘めたままでしたが、この日を皮切りに自分たちで現実を受け取め、それでもなお強くしたたかに生きてゆくのです。そして、なんらかの形で時子の影響を残していくことに決めます。

恩田陸さんの描く女性たちに私はいつも惹かれてしまいます。そんな魅力的な登場人物たちと一緒にあの日の真相を辿りませんか。

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