あらすじ
この小説は、別々の雑誌に書いた7つの短編を一つのお話にまとめ上げたものです。伊坂さんお得意の時空のねじれで読者を翻弄したり、お馴染みのキャラクターであるプロの泥棒、黒澤が持ち前の頭の良さと冷静さで依頼人たちをあっと言わせたり。なんともスピーディなエンターテイメント!これぞ伊坂幸太郎さん!
感想
首を折って人を殺す殺し屋、大藪はもちろんいい人なんかじゃない。人をたくさん殺めているんですから。でも、伊坂さんの作品に出てくる殺し屋たちはなぜかいつも憎めないんです。物語の中の世界だから許されるし、伊坂ワールドの魔法にかけられているからなんでしょうけど、どの殺し屋も、泥棒もチャーミングな部分をお持ちで学ぶところさえあるんです。
大藪はどうしても「誰かのために何かをしてしまう」男。その延長で首折りをしているようなものです。例えば、老人が電車の券売機で戸惑っていて時間がかかり、周囲を苛立たせていたら。自分が最初に怒ってしまうことで、周囲の苛立ちを抑え込んでしまうという新手の手法をして、その間に老人にゆっくり作業してもらうってことをしてたみたいです。もちろん、老人には事前に言っておいて(笑)もっといい方法があるんじゃないかって思うけれど、そういうことをしちゃうから、人のために首折りしちゃうんですね…。
伊坂さんの話に出てくる人たちっていつも世間の常識に捕らわれないけれど理屈が己の中にきちんとある行動をするから、新しくて面白いし、常識ってただの固定観念で偏見だったって思って、自分がいかに思考停止して世の中のルールや当たり前に乗っかっているんだと恥ずかしくもなります。だから面白いんだなー。
と、話が飛躍してしまいましたが、第2話の濡れ衣の話では、「キャッチボール」を起点とした時空のねじれがやっぱり醍醐味です。帳尻が合うのか、結局どうなるのかっていうのが読者に委ねられるのもまた面白いです。次の話、「僕の舟」でも、この「時空がねじれる」という言葉が登場するし、やっぱりこれは本書の醍醐味の一つと言えます。
この時空のねじれも、普通は起り得ないことを描いていますが、「人間らしく」もまた怪奇的な現象だったり、神様の存在だったりを認識させる話で、ロジックで解決する推理小説とはまた違った面白さがあります。
一方で、黒澤が登場する話、「月曜日から逃げろ」では、大好きなキャラクター黒澤が持ち前の頭の良さである人をぎゃふんと言わせちゃう話なんですが、最後にあっと驚くような構成で、これはどちらかというと、トリック的要素のあるミステリーといった趣があります。有栖川有栖さんが、怪奇とミステリー、どっちも書いていて、これ融合させるのすごいな!それぞれ違った良さがあるな、とか感動してたのですが、伊坂さんのこの小説では、融合というのとは違いますが、まさに「怪奇」や「非日常」と「ミステリー」、「論理的トリック」の含まれたお話、どっちも楽しめちゃうんで、なんとも欲張りな一冊だな、と思います。
本書は、またまた黒澤の名言に人生の師匠!と言いたくなってしまう要素満載ですし、最後の「合コンの話」でも、自分の生き方に対して勇気をもらえる名言がたくさん出てきます。ぜひ、みなさんにお手に取ってもらいたい一冊です!
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