吹雪の山荘に迷い込んだ劇団「暗色天幕」の面々は、そこで続発する見立て殺人に襲われる!?綾辻行人が生んだミステリーと怪奇の美しい融合が味わえる小説です。大ヒットとなった館シリーズとはまた違った静謐で神秘的な雰囲気の漂う作品です。
超常的な力を持つ謎に包まれた巨大な洋館の魅力
この小説の魅力はまず、この霧越邸という世間とは異なる時間が流れているような大きな洋館の存在にあると思います。かつて経営者であった主人とその執事や使用人がひっそりと暮らすこの洋館には、陶器や小説、絵画など古今東西のアンティークの逸品が所せましと綺麗に収められていて、温室や礼拝堂があったり、何人もの客人を泊められるような客室が並んでいたりと、夢のような豪邸のようにも思えます。しかし、吹雪の中迷い込んだ客人に対する対応はとても冷たく、主人には挨拶さえさせてもらえません。それに、なんだかもう一人杖をついた誰かがこの家に住んでいるみたいなんです。謎だらけの館に漂うどこか不気味な雰囲気が皆を気味悪くさせます。
また、この家は未来を写す鏡である、と住人は言います。その言葉を体現するように、家では様々な“動き”が起こり、それが予言となって、劇団員の連続殺人が始まります。科学を絶対的に正しいとする現代を生きる人々が、このような超常的な現象を信じるはずがありません。信じたくありません。しかし、信じざるをえないほどに、不気味にも人間の死を予言していくのです。
複数の解釈の果たしてどれが「真実」なのか。その答えは、そのうちのどれかを信じられる者の心中にのみ提示され得る。そしてあの時、あの家にいた私たちの主観においては、その「不可思議な何か」が確かに存在したのであった。
「吹雪の山荘」で起こる美しき本格ミステリー
ここまで、霧越邸が持つ怪奇的な力について述べましたが、ここで注目すべきなのが、続発する「見立て殺人」の結末が、そういった怪奇的な力、ホラー的なもので解決されるのではなく、緻密な論理に満ち満ちた美しいものであるというところです。なぜ犯人は、白秋の『雨』をモチーフにした見立て殺人を行ったのか、なぜ吹雪の山荘で閉じ込められているという犯人にとっては不利かもしれない状況下で犯行を行わなければならなかったのか。「探偵役」が論理的に推理を披露していきますが、しかしそれも一筋縄ではいかず…?
綾辻氏が、京都大学推理小説研究会時代に書いたプロトタイプを元に、20代の総決算というつもりで書き上げた本作品。「暗黒館の殺人」以前では、綾辻氏にとっても最長の作品となっています。綾辻さんのミステリーはやっぱり美しい。
皆さんも、時が止まったような神秘的な雰囲気漂う「霧越邸」での奇妙なゾクゾクとした時間にどっぷりと浸かってみてはいかが。
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