アリス殺し|小林泰三|夢の国の殺人とリンクする現実世界の死。アリスは食い止めることができるのか!?

アリス殺し

あらすじ

栗栖川亜理は、ごく普通の理系大学院生。彼女はずっと前から毎晩同じ夢を見ていました。ハンプティダンプティが塀の上に座ってて、白兎は時計を持ってるのにいっつも遅れて、女王はすぐに誰かの首をちょん切ろうとする。そんな「不思議の国のアリス」のような世界で生活する夢です。

でも、その夢はファンシーな物語なんかじゃありません。ハンプティダンプティが塀から落ちて粉々に割れて死んでしまった不可思議な出来事から始まる不思議の国の“連続殺人事件”が彼女を襲います。その事件が夢の中だから気にしなければ大丈夫、と割り切れないのがこの物語。

現実と夢の世界はリンクしており、どうやら夢の世界で自分のアーヴァタール(自らを反映した化身のようなもの。ネット上の人格のようなもの。)が死ぬと、現実世界の自分も死んでしまうらしいのです。

最重要容疑者はどうやらアリスらしい??不思議の国の世界では地球の常識は通用しないので、アリバイ証明も上手くはいきません。自らの命に危険を感じた亜理は、同じく二つの世界に生きる男子学生、井森と共にアリスに代わる真犯人を見つけようと動き出します。

 

現実世界と不思議の国が交互に描かれる中、ダイイング・メッセージから明らかになる衝撃の事実。途中から物語は急展開を見せ、読者としての勘違いがどんどん明らかになっていきます。さて、アリスは、亜理は奇怪なデスゲームを生き延びることができるのか!?

非現実的な世界観で一見説明がつかないようなことなのに、論理的に進み、トリックまで「あー、そういうことか!」と納得させちゃう作者の手腕がすごいです。ファンタジー&ホラー&ミステリーと、三つの要素が詰まっています。型破りの逸作をぜひ、ご堪能ください!

感想

 

「スナークは」

この一言で世界が崩壊しようが知ったこっちゃないわ。

そもそも世界は最初からこうなっていたんだもの。そうでしょ?

亜理は覚悟を決めた。

「ブージャムだった」

世界はがらりと変わった。

 

亜理が井森と夢の世界の合言葉を言い合うことによって、自分の夢がただの夢じゃないことに気付く瞬間です。この、「もう後には戻れない」という雰囲気の出し方が淡々としているのにすごく上手で鳥肌が立ちます。

自分と不思議の国の世界は繋がっていて、そういう人が何人もいて同じ夢を見ている。つまり夢じゃない。そう、夢じゃないんですよ…。あまり言うとネタバレになってしまうのでこの辺で。殺人が進むばかりで、なかなか進展しない物語が中盤にがらっと変わって、読者の思い込みをどんどん覆していくんです。そこが面白い。

アリスという言葉がタイトルに入っているのでファンタジーの要素が強いのかなと最初は思っていたのですが、めちゃくちゃロジカルに進みます。しかし、そのロジカルな推理が、私たちの生きるこの地球での常識的なルールではなくて、不思議の国のルールと作者が物語上に設定したルールに則って進むので、一筋縄ではいかないというのがまた癖があって引き込まれます。ファンタジックな終わり方も、ミステリーと一言ではいえない面白さがあります。

 

 

本作は、ほとんどの文が会話なので、ポンポンとテンポよく読むことができます。日本語で遊んでいるような持って回った言い回しで進む会話がなんとも面白い。この調子で凄惨な事件を描写していくので(しかも結構グロテスク)、結構怖いですが、ファンタジーとミステリーとホラーが綯交ぜになってバランスがよく仕上がっているので、多くの方が楽しめると思います!次は「クララ殺し」も読もうと思います!

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