からまる|千早茜|七人の男女の愛と「生きること」についての物語。研ぎ澄まされた感性を柔らかい文章で味わって

からまる

感想

本作は、七人の男女が恋や愛、生命について、生きることについて、自分の存在価値について、色々なことに悩みながらも、自分に自信を失いながらも、自分の弱さを受け入れて、強く「生きる」お話を短編で収録しています。全7話の登場人物たちはそれぞれ緩やかに繋がっています。あるお話ではとてもしっかり者に見えた人物が実はとても危うい人物であったり、まるで美しい幽霊のような人だなー、現実感のない人だなーと思っていた人にも、日々こなしていかなければならない日常がきちんとあって、「生きること」に希望を見出せずに悩んでいたりします。あるお話では背景だった人が語り手となると、実はこういう思いを抱えていたんだと、新鮮な気持ちになりました。

千早さんの小説はいつもですが、この小説は特に、五感が研ぎ澄まされた人が紡ぐ洗練された文章であると感じました。登場人物たちが自分の感情を表すときに使う独特の感覚的な言い回しはとても美しいです。直接的な言い回しじゃないのに、すっごく共感を覚える、そんな表現で、心にとても染みるんです。そんな風に彼らはとても繊細な心の琴線を持っていると同時に、何でもない風に見えても、本当は底知れぬ孤独感や絶望感に苛まれていたり、トラウマがぎゅっと自分を拘束していたり、内向的に自分一人で考えに考えすぎて沼にどんどんハマって自己完結してしまったりと、感覚が豊かで、且つ賢いからこそ本当は目に見えないところでとても苦しんでいる、そんな印象を受けました。「からまる」を読んで、私はそんな彼らにとても共感して、同士を見つけたような安心感を持ってしまいました(笑)。

あらすじ

「まいまい」は、ある雨の日に家の前にふと現れた女性が不定期に自分の部屋に訪れては、一緒に寝るようになっていくお話です。7編の中では、一番感覚的で現実感が薄く、不思議な雰囲気が漂うお話だと思います。(序盤は特にですね。)主人公の男は何でもそつない顔してさらっとこなすゆるっとした男なのですが、「めんどくさい」人間関係からは一線を引くようなところがありました。しかし、その女性があることがきっかけでふと訪れなくなってしまうと、自分が本当は心から求めていたものに気付いて一歩を踏み出す、そんなお話です。

 

「ゆらゆらと」は、見た目はいいし、頭だってそこそこ切れるはずなのに、いつも男に恋をしては裏切られるという失敗を繰り返してしまう女の子が、いつも落ち着いた芯のある友人との関わり合いを通して、自分を肯定して受け入れていく、真っ直ぐで素直なお話です。

“本当はそんなこと続けたって仕方ないってわかっている。でも、あたしは触れられることを求め続ける。誰かに触れてもらって拒絶されてないってわからないと、深く息ができないから。あたしの形をなぞってもらわないと、自分がいるってわからなくなるから。軟体動物みたいに体の輪郭が保てなくなっちゃう。いつも、いつだって。”

人の愛情を真っ直ぐに求める彼女がすごく愛おしいし、共感できます。

 

「からまる」は、「まいまい」の主人公の上司で、一見「温厚で我慢強い」性格で、公私共に理想的な生活送っているように見える男が、実は、妻の不倫がきっかけで家庭のぎくしゃくした雰囲気に頭を悩ませているお話です。休日に趣味の釣りをしているときにふいに話しかけてきた女子高生との関わり合いを通して、妻に向き合い、想いを吐露することを決意します。

“人は人に関わっていないと、自分を保っていられない。一人でねじれて絡まって、動けなくなってしまうのかもしれない。”

彼がそう気づく瞬間がとても好きです。

 

「あししげく」は、前の話にも出てきた気が強そうなお姉さんというイメージの人が主人公です。しかし、本当は昔は自分で何もかも抱え込んでしまうとっても危うい人でした。彼女が高校生のシーンは、すごく思いつめていて、大きなものをしょっている、硬い鎧をまとっている、そんな雰囲気でした。それが、ある人がその鎧を砕いてくれたおかげで、まあるくしなやかに強く生きられるようになっていくお話です。

“本当に守らなきゃならないものができた時、最強になるんだ。本当に強いってことは優しいってこと。”

 

「ほしつぶ」はそんな彼女の息子が主人公。彼は、ある日学校で金魚を殺してしまいます。親は心配するし、クラスメイトには変な目で見られるようになるけれど、彼は本質的な問題に自分一人で解決策を思いついて実行してしまっただけ。彼が金魚を殺してしまった理由とは?「命」について考えさせられる一遍です。

 

「うみのはな」は、「ゆらゆらと」に出てきたいかにも落ち着いていて自分をきちんと持っている友人として登場した女性が主人公です。そんな彼女にも、感情のコントロールが効かなくなる自分がどうしても乱されてしまう相手が一人いるのでした。

“わたしはいつだって自分を持て余している。燃え盛る炎に飲み込まれる場所を欲している。気が狂いそうな程に。”

“わたしは傷を治したくないのだ。あの男のつけた傷を。脈打つ赤い血を流し続けていたいのだ。”

歪んだ自分の想いに悩まされながらも、最後は、偽物だとしても鮮やかに笑って優雅に踊り続ける自分を肯定して生きる決意をする、強さを感じさせるお話です。

 

最後は、一番最初のお話に出てきた不思議な女が主人公となる「ひかりを」で終わります。彼女の職業はもうすでに明らかになっていますが、生死について常に考えさせられるお仕事です。そんな現場にいながらも、常に自分が生きる意味を見出せないまま、そして、そんな自分には誰かに愛情を求める権利などないと落ち込みながら、彼女は日々をせわしなく、しかし静かに過ごしていきます。しかし、ある老人との出会いをきっかけとして彼女は「生きる」ことを自分も望んでいるんだと強く感じるのです。そこから「まいまい」の名シーンへとぐるっと一回りして物語は終わります。

おわりに

本作には、くらげやなまこなど、海の生物が沢山出てきます。この小説を読むこと自体が、海生生物たちが住む海の中をたゆたっているような感覚なのです。ぜひ千早さんの研ぎ澄まされた感性を柔らかな表現でお楽しみください。

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