神様のボード|江國香織|骨ごと溶けるような恋

神様のボード

あらすじ

草子は、かつて骨ごと溶けるような恋をした母、葉子と共に旅がらすとなって、数年おきに引っ越しを繰り返す生活を送っていました。どこかに馴染んでしまったら、あの人のところへは戻れない。あの人以外のところで馴染むことなんてできないと考える葉子は、愛する我が子と共に、神様のボードに乗って、様々な土地をふらりふらりと旅しながら暮らすのです。

草子はパパの存在を待ち続けていたからこそ、本当はしたくない引っ越しも「いいよ」と言って、受け入れてきたのでした。しかし、成長するにつれて、パパは決して戻ってこないと気づき、「ママは現実を生きていない」と、悲しくなりながらも指摘し、自分は、ママが作るパパの世界からは抜け出して現実を歩むようになります。

これは狂気的な愛の物語。江國香織さん自身が「危険な小説」だと言うお話。一人の女性が愛に生き、滅びるまでを、本人とその子供の視点から描いたこの一冊で江國さんの生み出す世界観に浸りませんか。

感想

ある日、あの人と共に、地中海の島のリゾートコテージでシシリアンキスというカクテルを飲みながら小説を読んでいた葉子。あの人のキスに耐えられなくなって、本を置き、二人でベッドに倒れこむ。晴れた午後の日差し。ベッドの上の空いている窓。ひんやりとした部屋の中。あの人と葉子の間に、その日、草子が誕生しました。ロマンティックで何物にも代えがたい二人だけの世界に、もう十年以上住み続ける葉子のもとにあの人は帰ってきません。しかし、その現実を受け止められず、娘に現実を生きるよう指摘されても、その現実よりも破滅を選び取ってしまう葉子の狂気的な愛。自分の愛にただ真っ直ぐに滅びていく脆さと美しさが感じられます。

 

ここまで愛することができる人がいるというのは羨ましくもあり、盲目的な愛は人をここまで縛ってしまうのかと恐ろしさを感じます。本当は旅など一度もしていないし、きっとあの人は葉子にとっては素晴らしく良い人だけれど、客観的に見たら、逃げたも同然なはず。なのに、葉子は草子と共に毎年あの人の誕生日をお祝いして、あの人以外の場所に馴染まないように住む土地を変えて、新しいものを拒まず、過去のものは箱の中にしまって、ふうわりふうわり虚構のような世界を危うく生きる姿は悲しい。

 

江國香織さんの描く日常は美しくて儚くて繊細で、いつまでもその言葉の生み出す世界に浸っていたくなります。脆くて危うい葉子と、何にも流されない強さと聡明さ、そして優しさを持つ草子の織りなす日常と言葉が紡ぐ物語。ぜひ堪能してみてくださいね。

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