Nのために|湊かなえ|4人の証言がパズルのピースのようにはまっていくとき浮かび上がる読者にしか分からない驚きの真実とは?

Nのために

「究極の愛、それは罪の共有」

ある日、高層マンションの一室で、資産家であり商社勤務の男とその妻の変死体が発見されました。現場に居合わせた4人の証言は、一見齟齬がないように思え、事件は解決となりましたが、実際のところは、嘘にまみれていました。
10年後、4人がそれぞれの視点から過去を振り返り、当時の真相をありのままに語っていくとき、初めて真実が明らかになります。4人それぞれが思う大切な人、Nとは誰なのか。すべてはそのNのために、それぞれが起こした行動が相まって起きた結末であり、それぞれの秘密を10年の間秘めて守り通したのは、「Nのために」なのです。切ない究極の恋愛ミステリーがここに現る!

一人一人の視点から描かれる当時の状況とそれに至るまでの心の動きやそれぞれが抱える過去のトラウマ、すれ違う秘めた恋心など、物語を読み進める中で少しずつ一つ一つのピースがハマっていく様子はワクワクドキドキで、たまりません。野口夫妻の変死に至るプロセスという一つの事実を語っているのですが、4人それぞれが秘密を抱え、また同じ事実でも捉え方が違っていて真実が歪んでいるので、それぞれのすれ違いや認識の齟齬を理解できるのは、第三者の視点ですべての証言を聞くことができる読者だけという快感があります。かなり切ない気持ちにはなりますが楽しいです。

 

また、湊かなえさんと言えば、大ヒットしたデビュー作、「告白」から始まるいわゆる「イヤミス」と呼ばれる、人間の負の側面を隠すことなく描き出す後味が悪く癖になる作風が特徴ですが、本作にもその要素が含まれています。死んだ野口夫妻の関係にある「暴力という名の愛」を求めるいびつな恋愛関係や、西崎が描いた小説、「灼熱バード」で語られる、虐待を美化しないと生きていけない苦悩などは、まさに人間の負の部分を赤黒く描き出しています。

このイヤミスを単なるお話の中の世界として受け止めて終わることができないのが、湊かなえさんの作品の中毒性の原因なのではないか、と本作を読んで感じました。

ふとしたことがきっかけで人間は壊れてしまうし、そこから回復するのって本当に時間がかかるし、回復したと思ってもその傷は消えることはなくて、何かをきっかけにしてまた自分を下に引きずり落してしまうし、それでも、そんな過去のことなんて言い訳にしないでひたすら前を向いて必死にもがかないと生きていけないし。本の中にでてくる人々のことがどうしても他人事とは思えないからもっと共感したいと思うし、絶望の先にきっと待ち受けている救われない未来を怖いもの見たさで見てしまうという側面もあるのだと思います。

 

4人の心のうちを垣間見ながら、愛について考えさせられる恋愛ミステリー。やっぱり中毒になっちゃうな。

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