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【名探偵の証明|市川哲也|《鮎川哲也賞受賞作》探偵とは何か】
あらすじ
事件解決率ほぼ100%を誇り、1980年代の推理小説界に「新本格ブーム」を巻き起こしたほどの敏腕探偵、屋敷啓次郎。しかし、時は経ち、屋敷も60代になり、探偵活動も年中休業中。隠居生活のような日々を送っていた。
そこへかつての相棒である刑事、武富竜人が訪れ、もう一度、名探偵、屋敷啓次郎を見せつけてやれと、屋敷を鼓舞しに来た。屋敷は「これでだめならもう探偵を辞める」という覚悟を決め、依頼を受けることを決断する。その依頼こそが、現代の名探偵、蜜柑花子に宛てられた挑戦状を巡る事件であった。
“かつての名探偵×現在の名探偵”で挑む、密室殺人事件。明らかになる悲しい結末と意外な犯人とは?屋敷は名探偵として復活できるのか?事件解決に終わらない、「名探偵とはなにか」について考えさせられる老いた名探偵目線の今までにない作品。衝撃のラストがあなたを待っています。
感想
「事件の結末が分かる、トリックが分かる、犯人が明らかになる。そして、それらが意外なもので、どんでん返し、思いつかないような経路を辿って真相に巡り付く名探偵の手腕に感動。」これが今まで私が推理小説で楽しみにしていた要素でした。しかし、「名探偵の証明」はそこで終わりません。
老いて実力がなくなっていくかつての名探偵視点が「名探偵とは何か?」を必死にもがきながら追求し続け、自らの生き方を模索していく物語なのです。序章で、かつての屋敷と相棒、竜人が華麗な推理を繰り広げる様子が描かれているからこそ、その後のギャップに切なく、苦しい気持ちにさせられました。
いつも、スマートで切れる人間味のない人物が名探偵像として私の中にあったのですが、ここで語られる名探偵は、自らの探偵としての使命を実感しつつも人間らしく思い悩む等身大の「普通のひと」としての姿でした。「calling=①使命、②天職」。「やめることなどできやしない。探偵こそが俺の一生を懸けた仕事なのだから。」探偵、屋敷啓次郎を応援せずにはいられない小説です。
そして、ミステリー好きにはたまらない、“クローズド・サークル”。意外な犯人とその動機に悲しく、涙がこみ上げました。小説の最後に屋敷がした推理がこれであったというのもなかなかに切ないけれど、美しいと思いました。そして…前進したな、と思った先の衝撃のラスト。悲しくも美しい、まさしく名探偵・屋敷啓次郎を描いた傑作です。
【密室館殺人事件|市川哲也|開放の条件は「論理的に殺人のトリックを暴くこと」】
あらすじ
屋敷啓次郎に心酔しているミステリ作家、拝島登美恵が、取材と偽って男女八名を己の小説の舞台を再現した密室館に監禁します。その密室館には、かつて何度も事件に巻き込まれてきた少女や死に対してあまりにも無関心に見える男性、かつて探偵蜜柑花子の関わった事件で両親を失った男子学生など何か事情を抱えていそうな者たちが集まっていました。そして、名探偵、蜜柑花子もその中に招待されていたのです。
開放の条件は、「論理的にこれから起こる殺人のトリックを暴くこと」。
果たして、8人は出口のない館から抜け出せるのか。生きて帰ってこられるのか。人間とは思えない拝島の殺人トリックのお遊びの目的は何なのか。名探偵、蜜柑花子の渾身の推理と彼女の名探偵としての苦悩を描いた「名探偵の証明シリーズ」第二作目です。
感想
密室館という小説の中でしかありえない場所に、もしもこんな風に自分が監禁され、死と隣り合わせの数日間を送ることになったら、果たしてどんな精神状態になってしまうのでしょうか。そんなことを考えながらゾクゾクしながら読み始めました。そして…すぐに読み切ってしまいました!(笑)監禁された8人のそれぞれが抱える事情が少しずつ分かっていくような、でもこれがすべてではない、もっと違うものを抱えているような…という気持ちで色々な伏線に翻弄されながら、蜜柑花子の推理で明らかになっていく真実は拝島の恐ろしい野望でした。先が気になりすぎて、一気読み必至です!
個人的には栖原くんの過去についての語り、その過去に対する蜜柑の考察の部分が悲しくて、でも美しくて好きでした。また、トリックを暴くところで終わらないのが、「名探偵の証明シリーズ」の魅力で、蜜柑花子が対峙する名探偵としての苦悩を若々しくリアルに描いているのが、また新しいのです。名探偵に必要なのは、勘と運と想像力。そして、己の感情を排除して冷静に思考する力。優しく本当は思いやりに満ちた蜜柑には、名探偵という仕事はかなり辛い仕事なんですね…。そして、最後には、次の話に繋がる新しい展開が待っています。最終巻での蜜柑の更なる活躍に期待です!
【蜜柑花子の栄光|市川哲也|6時間で4つの未解決事件を解き明かせ!】
あらすじ
多忙を極める蜜柑の事務所に突如現れた訪問者は、密室館の事件で深く関わりのあった祇園寺恋だった。恋は、奇妙なグループに母親を人質に取られ、蜜柑が6時間以内に4つの事件を解決しない限り、人質は解放されないのだということを伝えに来た。依頼を受けた蜜柑は、体力的にも精神的にも追い込まれながらも、一つ一つ謎を解き明かしていく。大阪、熊本、埼玉、高知と全国に散らばった未解決事件。しかも、移動は車のみという過酷な条件の中、蜜柑は時間内にすべての事件を解決できるのか!?一気読み必至のタイムリミットミステリー。「名探偵の証明シリーズ」完結編。
感想
人体発火、人体消失、ダイイングメッセージを巡る謎、完璧なアリバイトリック。一見、絶対解けないという謎を解いてしまうのが、名探偵、蜜柑花子なんです。心優しくて共感力が人一倍強い蜜柑が苦しみながらも、感情を表に出さずに名探偵としての使命を全うしていく姿が、強く胸に残りました。
今回の事件一つ一つも人間の強い嫉妬や愛情、罪悪感などが犯罪の裏には隠されていて、犯罪に手を染める人の心は理解しがたいけれど、人間の感情って上手く制御できなくなったり、内に秘めたものが大きくなったりしてしまうと、こんな風になってしまうことだってあり得ると思うと、小説の世界ながら、恐ろしくなりました。特に、最後の事件では、まさにその一言で鳥肌が立ってしまうようなまさかの結末でした。推理小説好きさんは、一番楽しめると思います。しっかし、ひどく歪んだ姉弟関係となった背景には、ぞわぞわしてしまいました。
そして、なんといっても、見どころは蜜柑と恋の「名探偵」としての生き様の違いでしょう。彼女たちは同じ能力を持ちながらも、違う信念を持ち、互いに孤独に進んでゆきます。蜜柑に栄光あれ!と思うとと共に、恋は完全な悪者ではなく、何か抱えるものがあって、そこを乗り越えるようであってほしいと願う私でした。
「名探偵の証明」シリーズ完結編。鮮やかな推理とドキドキのタイムリミットミステリー、皆さんも楽しんでみてくださいね。
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