デリバリールーム|西尾維新|“我が子”の幸せで安全な出産のために妊婦たちは戦う!

デリバリールーム

あらすじ

参加費、50万円。“我が子”の幸せで安全な出産のために、妊婦たちは立ち上がる!儘宮宮子。15歳、女子中学生、妊娠6ヶ月。大学教授のママからは愛を、小説家のパパからは恋を学んだ宮子は普通なら有り得ない理由で子を身籠りました。

そんな宮子のもとへ「我が子の幸せで安全な出産と将来を得るチャンスを与えます」という趣旨のいかにも詐欺らしい招待状が届きます。宮子は、藁にも縋る思いでデリバリールームの招待状とパパからもらった(奪った?)50万を持ち、待ち合わせ場所へ向かい、賭けに出ることを決めます。

さて、デリバリールームは、噂のような妊婦のデスゲームなのか、それとも…?「命のためなら命をかける」妊婦たちの負けられない頭脳戦が今始まる!

感想

まず、西尾維新さん、よく「妊娠」、しかも「訳ありの妊娠」といういかにもデリケートな題材で、これほど思い切った小説を書いたな!と驚くと同時に、数々の女性ヒロインを繊細な内面描写と共に活躍させ、どんなに深刻なテーマでも、ポップで笑える言葉遊びを使って読者を楽しませてきた西尾維新さんだからこそできる小説だ、と納得しました。

そして、主人公の宮子の性格が気が強くって、偏屈だけど、優しくって聡明で、とても心惹かれるものなんです。どんなに辛くても切羽詰まっていても「考えること」を止めない宮子は、どのゲームにおいても解決の糸口を見つける発想を思い付き、数々のピンチを乗り越えます。カッコいい。
また、「読書家が手に取らないような小説」を書くパパ(元パパ?)の実は大ファンである宮子はどうしようもなくなったときに、「パパの小説の中の主人公だったらこの後どうする?」と考えたり、何か難しい用語が出てくるたびに「これはパパの小説によく登場する言葉だから知ってる」と、パパの本の愛書家ぶりを発揮したりする描写がとてもかわいい。
それに、他の妊婦たちを敵対視しているかと思いきや実は同情してなんとかしたいと思ってしまう正義感と優しさも持っていて、本当に素敵なキャラクターだなと思います。

そして、このデリバリールームの主催者、令室爽彌の「デリバリールーム」開催の思惑が後半明らかになるのですが、それもまた時代性を感じられて、なかなかに面白いです。妊婦たちは頭脳と体力と時の運を使って、様々なミッションを乗り越えていくのですが、その報酬は「幸せで安全な出産」ということしか知らされていないし、主催者たちの正体や目的も謎のまま物語が進むのもワクワクします。結末もその過程も大満足なんです。

西尾維新さんって誰でも読みやすい、楽しめる、言葉を巧みに躍らせたライトノベルを書いているってイメージがあると思いますが(それも間違ってはいないですが)、実は社会問題にいつも鋭いメスを入れているんですよね。文中で、

“考えるだけでうんざりさせられる気分になるのは、デリバリールームに救いを求めるしかなかったそんな彼女たち二人さえ、社会から落伍した妊婦のうちで、最悪のケースではないということだ。”

とあるように、妊娠に纏わる女性の不幸話は絶えないのです。もちろん、妊娠は普通おめでたいことではありますが、世の中の闇の中では、望まないことが現に起きています。救われない妊娠で命を絶ってしまう女性もいるくらい。そして、その闇の中にはどの女性だって、自分自身だって落ちてしまう可能性は大いにあるのです。「女性にもっと権利を!」とか語りたいわけでもないし、フェミニズムを主張(または否定)したいわけではないのですが、「出産」や「妊娠」に対して当事者ではない男性がどこか感覚がずれていたり、理解が少なかったりということは身近にある問題のように感じられます。

西尾維新さんはそんなとっつきにくい、でも世の中の皆に考えてほしいテーマについて、実に軽妙に語り、しかし迂回せずざっくりと切り込んできます。楽しいし、深いし、ほんとに皆に呼んでほしい!(西尾維新さんのファンとは思えない語彙力、すみません笑)

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