蛇行する川のほとり|恩田陸|儚く残酷な4人の少女たちのひと夏の物語。

蛇行する川のほとり

あらすじ

本作は、4人の高校生の少女のあるひと夏の物語を描いています。9月に行われる演劇祭の舞台背景を描くため、憧れの先輩である香澄と芳野に誘われて香澄の家で夏合宿を行うこととなった毬子。あの香澄さんたちに誘われた!と最初は有頂天だったものの、突如現れた少年の忠告を皮切りに、その夏は次第に陰りを帯びてゆく。彼女たちは、何か秘密を共有しているようで、その秘密は毬子にも幼い頃に関わりのあったある事件に関するものだということが分かってきます。忘れていたはずのひと夏の記憶がよみがえるとき、彼女たちはどんな決心をするのか。儚く残酷で、だからこそ美しい少女たちのひと時が綴られています。

「ネバーランド」では、4人の少年たちが冬休みに寄宿学校に居残って己の過去を解き明かす推理戦を繰り広げますが、本作はそれの少女バージョンといったところでしょうか。性別と季節が変わったことで、爽やかな青春を感じさせる雰囲気と、白いベールにふんわりと包まれた世界に木漏れ日の光が差し込むような淡い雰囲気という違いはあるものの、過去に起こった事件の謎が、自分たちの過去が次第に明らかになっていく中で、少しずつ見えてくる儚さを描くという点では一致していると思います。

感想

美しい少女

この小説に出てくる少女たちは美しい。恩田陸さんの小説に登場する少女たちは私の永遠の憧れです。学校と家族とその周辺という狭い世界の中で、与えられた自分の役を全うしながら儚く可憐に、しかし、したたかに生きる彼女たちの美しさに見とれてしまいました。凛とした近寄りがたい雰囲気を纏うすらっとした髪の長い美少女、香澄。愛嬌のある雰囲気で、周りをふんわりと和ませる、無造作な天然パーマに華奢な体が魅力の芳野。吸い込まれそうな大きな瞳に顎下で綺麗に切りそろえられたボブカット、大人びた雰囲気の真魚子。感受性豊かで儚げで、その危うさが美しく愛らしい少女、毬子。4人の少女はそれぞれの魅力を持ち、それぞれの視点から紡がれる物語もまた、それはそれは美しいのです。

美しい表現

表現が美しい。ささいな自然や日常風景の中にこそ美しさが宿っている。そのことを感受性豊かで聡明な少女たちの目線から描くのが堪らなく心地いいんです。恩田陸さんの文章は心が洗われるようでとても気持ちいいのです。

“夏の洗濯は好きだ。庭いっぱいに干し終えた、家族全員のシーツが行儀よく並んでいるのを見ていると、ささやかな満足感に満たされる。シーツのカーテンの間に小さな椅子を置いて腰掛け、バケツの中でガラガラと運動靴や白い上靴を洗う。思わず無心になって、古い歯ブラシで上靴の汚れを取ることに熱中している時間は、夏休みの最上のひとときだ。泡の下の真っ黒になった水が、なぜか嬉しい。(本文より)”

毬子の夏の始まりを描くこの日常の描写もとっても好きな表現の一つです。ノスタルジーを感じるようなゆったりとした時間を味わえます。

虚構の真実

真実は一つじゃない。これは、恩田陸さんの作品に共通して現れるテーマです。そのことが本作でも描かれています。

“真実?どこにそんなものがあるのでしょうか。真実。その言葉を口にしたとたん、その言葉が持つ虚構の猛毒で、舌が腐り始めてしまうことをあたしは知っています。あたしたちは、自分が見たものしか信じられない。いえ、自分が見たいものしか信じられないのです。真実とは、あたしたちが見たいと思っているもののことなのですわ(本文より)”

これって時には残酷なことですよね。だって、人が見ている真実と一致することなんてないのだし、誰かを完全に理解していることなんてないということでもあるのですから。そして、それに気づかずに自分が作った己の世界の虚構の真実を真に受け入れてのうのうと生きているともいえるのですから。

それに対しての諦めや覚悟が儚くも強いラストがこの物語の一つの魅力ともいえるでしょう。

 

少女たちの美しく残酷なひと夏の物語。ぜひ堪能してみてください!

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