常に怪談や怪奇事件に遭遇することを心待ちにしているイケメンで変わり者の民俗学准教授、高槻彰良と、高槻先生のもとで、調査を共にするアルバイトをしている不思議な能力を持つ地味メガネキャラの男子学生、深町尚哉が己の正体を明らかにするためにも、日々怪奇事件に立ち向かうシリーズです!
Contents
準教授・高槻彰良の推察シリーズとは?
10歳の夏の夜のお祭りでの不可思議な出来事がきっかけで、“嘘を見分けることができる”能力を持ってしまった少年、深町尚哉と、彼が通う大学で教鞭をとる民俗学准教授、高槻彰良が怪奇現象としか思えない事態に悩む人々の事件の真相を解明してゆくお話です。
一巻につき、2~3つの怪奇事件調査を扱っています。怪異が大好きすぎて時に歯止めが利かなくなってしまったり、人との距離感が異様に近くて依頼人に引かれてしまったりする高槻先生。そんな先生にストップをかける役割の尚哉、古くからの高槻先生の親友で、困ったときにはいつも助けてくれる頼もしい強面刑事、佐々倉など個性豊かな登場人物たちによる面白怪奇ミステリー!
高槻先生は、幼少の頃、誘拐事件に会い、背中に翼を切り取られたような大きな傷跡を残して路上に捨てられて発見されるという事件に会いました。その後、高槻少年は時折藍色の目になり、別の何かが宿ったような発言をするようになったり、異常に鳥を恐れるようになったり、類まれな記憶力を発揮するようになったりと、一遍してしまいます。その異様さに、母は「天狗にさらわれて戻ってきた奇跡の子」と高槻少年のことを思い込み、それがきっかけで親子の仲は崩壊してしまいます。「あの“誘拐“は人間による犯行だったのか、それとも怪奇現象だったのか」自らの謎を解く鍵は果たして見つかるのでしょうか。
嘘を聞き分けられる少年、尚哉と高槻先生は、性格は正反対のように見えるけれど、不思議な能力を持つ点とそれゆえに周りと一線置いてしまうという点でよく似ています。誰に対しても一歩引き、心を許すことがなかった尚哉が、高槻先生に心を少しずつ開いていき、調査や旅行と題した調査(?)を楽しむようになり、前向きに変化していきます。
一つ一つの謎解きも登場人物たちの関わりの中で生まれる笑いや感動も全部楽しめるシリーズとなっています。
巻ごとのあらすじ・感想
1. 準教授・高槻彰良の推察-民俗学かく語りき-
第一章「いないはずの隣人」では、ある女性が、自分のマンションの一室で起こる怖い現象の数々から、ここは事故物件なのではないかと疑うようになり、高槻先生に依頼を持ちかけてきます。尚哉は高槻先生とマンションに泊まり込み、怪異なのか否か確かめることに。
続いて、第二章「針を吐く娘」では、依頼人の女の子は藁人形の呪いとやらに悩まされていました。自分の周りにぽろぽろと針が落ちる現象が続いて、どんどんエスカレートしていくその呪い。二人の女の子の友情ゆえの複雑な思いがそこには関係していました。相手を思い気遣う彼女たちの優しい嘘の声が、それでも歪んで聞こえてしまう尚哉は、高槻先生にとうとう自分の特殊な能力について告白します。
そして最後、第三章「神隠しの家」では、失踪して帰ってきたものの全く記憶のない友達の身に何が起こったのかを探りたいという依頼を引き受けます。尚哉は調査の過程で高槻先生の別の顔を見ることに…。
怪異というのは「現象」と「解釈」の二つで成り立っていると先生は言います。怖い現象、説明のつかない現象に人々がどうしても理由が欲しくって、何にも理由がないよりは、お化けのせいにしちゃえ!って、そうやって色々な都市伝説や怪奇現象が生まれると思うと面白いですよね。事実はどうなのか分からないし、そもそも聞いただけのことなら実際起こったのかも分からない。けれど、人間は説明のつかないことを一番恐れるから、無理やり、それもなるべく面白おかしく理由をつけて「解釈」するんですよね。そう考えると、よくある学校の怪談にも色んなパターンがあったりして、なんでこうなったのかって考えるのは楽しそうですよね!そういうことを高槻ゼミでやっていると思うと入りたくなります!(笑)
この一巻では、謎解きはもちろん、少しずつ二人の素性が明らかになっていき、次の巻が楽しみになりますね。
2. 準教授・高槻彰良の推察-怪異は狭間に宿る-
第一章「学校には何かがいる」では、ある小学校で他愛のない遊びから始まったこっくりさんをきっかけに、かつてのクラスメイトだった千夏ちゃんの呪いやロッカーの怪奇現象など不気味な噂が校内に広まってしまいます。「日常」と「非日常」が入り乱れる学校という場所で噂になっている不可思議な現象の謎を高槻先生と尚哉が優しく紐解いていきます。
第二章「スタジオの幽霊」では、高槻先生は「霊感女優」を名乗る藤谷更紗から、「ホラー映画撮影のスタジオで怪奇現象が続いている」という相談を受けます。尚哉はいつも通りおのれの能力を使おうとするも、なぜかちっとも音がゆがまなくなって…。果たして二人は真相に辿り着けるのでしょうか。
第三章「奇跡の子供」では、遠足中の小学生を乗せたバスの墜落事故でたった一人生き残った少女が、「奇跡の子供」として神様のように祀られているという情報を聞き、その真相に迫る物語です。同じく奇跡の子供として人間じゃないもののように扱われたことのある高槻先生は、この子の身に起こっていることを明らかにするため奔走します。
現実と異界の間を歩くような二人。この巻では、二人の距離がさらにぐっと近くなります。尚哉は自分の能力がなくなったと思ったときに、高槻先生とはもう一緒にいられないのではないか、と不安に思うのですが、もちろんそんなこともなくって…。反対に、高槻先生も己の過去の心の傷を尚哉に打ち明け、いつも世間との間に引いていた境界線の中に少しずつ互いを迎え入れてゆくのです。いつ違う世界に行ってしまうか分からない身であるからこそ、この世に「未練」をたくさん作るんだ、と語る高槻先生。それって、特殊能力なんてない私たちにも当てはまるなって。いつ死ぬか分からないからこそ、たっくさん未練を作りたいなーと思った、今回も素敵な二巻でした!
3. 準教授・高槻彰良の推察-呪いと祝いの語りごと-
第一章「不幸の手紙と呪いの暗号」では、尚哉の数少ない友人、難波君のもとに「不幸の手紙」が舞い込み、その後、不幸が次々と起こるために「呪われている」と嘆く難波君を救うため、尚哉が、高槻先生のもとに難波君を連れていくところから始まります。私が中学生のときなんかには「チェーンメール」としてはやっていたあれです。いまはLINEとかなんでしょうか。それともなくなっているのかな。それはともかく、この怪異と、もう一つ、図書館に散りばめられた暗号を巡る切ないお話が一緒になった章です。
第二章「鬼を祀る家」では、ある山奥の閉ざされた村で昔々鬼退治をし、鬼神様が二度と災いを起こさないようにとそれから祀り続けている「鬼頭の家」に住む老人と義娘の真実を巡る優しく悲しい物語。高槻先生の命がまさかの大ピンチ。佐々倉と三人で慰安旅行の気分で出かけた旅行がこんなハラハラの旅になるとは…。
「【extra】それはかつての日の話」では、幼馴染である佐々倉と高槻先生の幼い頃の様子が語られています。佐々倉がその風貌に似合わず、大の幽霊嫌いになった理由はなんだったのでしょうか。
「物事の悪い面よりも、良い面を見つめようとする。いつだって、辛く悲しい現実に対してせめて少しでも優しい解釈を与えようとする。まるで、そうすることで呪いを祝いに変えようとするかのように。」
物事の良い面を見よう!なんてよくあるセリフですが、なかなかできることじゃありません。高槻先生のように何でも優しく美しく「解釈」できるようにしたいものです。きっとその方が何倍も人生得しますもんね!無理に笑うのって辛くて良くないってこともありますが、私は無理にでも笑ってしまう派です。それと、言霊も信じているので、なるべくポジティブな言葉で日々を彩るようにしています。出来事に対してだけではなく、不満ばかりぶつけてしまう愛すべき大切な人たちも、高槻先生のように優しい言葉で包み込めるくらい大人になることが私の目標です(笑)
4. 準教授・高槻彰良の推察-そして異界の扉がひらく-
第一章「四時四分の怪」では、「四時四十四分四十四秒に特定の行為をすると、良くないことが起こる」という学校でよく流行っていた怪談を思い出し、それを会社の同僚とふざけ半分でやったら、命にかかわるような不可解な事件が起こりだし、あれは呪いなのではないか、と高槻先生に解決を求める女性のお話です。今回の事件にはタイムリミットが。さて高槻先生は謎を暴くことができるのか。
第二章「人魚のいる海」では、SNSで最近世間を騒がせている「人魚」の目撃情報。怪奇現象大好き、高槻先生が放っておくわけがない!ということで、突然帰国した高槻先生を一時海外で預かっていたという気さくでダンディな英国紳士然とした叔父である渉、佐々倉、そしてもちろん尚哉を連れて、人魚が出たという噂の海岸へ向かいます。明らかになる悲しく優しい現実とそれでも分からない謎。今度こそ本当の怪異に、高槻先生は出会えるのか!?
「【extra】それはかつての日の話Ⅱ」では、どんなことがあっても笑うことしかできなかった心に大きな傷を負った高槻少年が、預けられたイギリスの叔父さんの家で、人間らしさを取り戻していく様を描いたお話です。高槻先生が大のココア好きになった理由もここで明かされることになります。
この章では、叔父さんが初登場しますが、もうなんとも素敵なキャラクターで、不器用ながらも幼い高槻少年を心底大事にしているところ、冗談が大好きでパッと周りを明るくする肩の力の抜けたようなところも、まさしく英国のジェントルマンらしい優しさを持ちつつ、強く己を持つところも、本当に惚れ惚れしてしまいます(笑)この叔父さんと彼の仲間たちに育てられて、高槻少年は本当に救われたはず。次第に明らかになってゆく彼の過去ですが、背中の傷の原因は謎のまま。次回は少しでもヒントが得られるのでしょうか?楽しみでなりません!
5.準教授・高槻彰良の推察-生者は語り死者は踊る-
「第一章 百物語の夜」では、ある生徒の提案により、夏休みに高槻先生と尚哉や難波くんを含む生徒たちが夜の学校に集まり、百物語の会を行うことになります。
百物語とは、百の怪談を参加者が順々に話していく会で、全部話し終えたときに、何か怖いことが起こるという言い伝えがあります。百物語は順調に進んでいき、ついにクライマックス。百話目を語り終えたときに、不思議な声が聞こえてきます。
皆その生者ならざるものの声に身を震わせますが、高槻先生の明るい声により安心を取り戻し、楽しい花火と共に、百物語の会は幕を閉じます。その声の正体は何だったのか。生者と死者の付き合い方を考えさせられるお話となっています。
高槻先生は、「どうして世の中にはこんなに幽霊の話があるのか」という問いに対して、“恐ろしい死というものに説明をつけるため”という理由の他に、“強い死者への思慕の念を、幽霊話によって処理するため”という理由があると語ります。
命が失われても、すべてが消え失せてしまうわけではなく、魂は残る。私たちは、親しい人が亡くなったとき、そう思うことで、どうしようもない悲しさや寂しさを思慕の気持ちに変えて、気持ちに折り合いをつけているのだと思います。
エンタメとしての過激で恐ろしい幽霊話が多くなっているのは事実ですが、日本にはお盆の風習が残っているように、温かく、生きる死者の魂の存在を受け入れる考え方を我々は持っているし、これからも持ち続けるのではないかと思います。
私は幼い頃に父を亡くしましたが、小さなころから、不安なことがあると、「大丈夫、お空では父が見守ってくれている」「父は私の見方のはず」と思うことで、とても安心することができました。暖かい気持ちで死者と向き合えればもし、それが仮に現実ではないとしても、良いことなのではないでしょうか。
「第2章 死者の祭り」では、高槻、尚哉、佐々倉で、ついに、尚哉が嘘を聞き分けられる耳を持つきっかけとなったお祭りが開かれた村へ足を運ぶことになります。この村では、夏の盆踊りのお祭りを、「赤の提灯による生者のための盆踊り」と「青の提灯による死者のための盆踊り」に分けて開催していました。
この死者のための盆踊りの時空がゆがんだ本当の死者の祭りの場へ迷い込んでしまったのが尚哉であり、今回も高槻先生と共に死者の世界へ入り込んでしまうことになります。「手をとる相手を、間違えたら駄目だからね。…絶対に」と忠告を受けたにも関わらず、尚哉は死者の手を握り、死者の世界から戻れなくなりそうになります。
「僕たちは帰るんだよ。現世に。」
高槻と尚哉は、現実世界に戻ることができるのか。いつも笑顔の高槻の身に何が起こるのか。遂に、あちらとこちらの境界を越えてしまった二人のスリリングなストーリーです。
高槻との出会いにより、大切な人、好きな人、そういった尚哉を現世につなぎとめてくれるものができたことにより、「自分は孤独じゃない」と、窮地で生きる道を選択できた尚哉ですが、そういった存在って誰にとっても大切なものだと思います。
自分が追い込まれてもう駄目だと思ったとき、生きる意味が感じられなくなったとき、「あの人がいる」そう思える人が一人でもいるならば、ぐっと生きる方へ人は吸い寄せられるのではないでしょうか。一筋でも希望があるならば、その存在を私たちは決して忘れてはいけません。そして、誰かにとって、そういう存在になれるように、とことん大切な人を大切にしたいなと、私自身思います。
この物語は、高槻ゼミの院生である瑠衣子が高槻先生に対する想いや過去の出来事について語る場面で幕を下ろします。どんどん高槻先生の正体が明らかになっていくので、次回がまた楽しみです。
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