昭和の代表的女流作家、有吉佐和子さんの「悪女について」に令和のミステリーファンが熱狂しているということで、書店で思わず手に取ってみましたが、これが面白いったら。一人の悪女の一生を描くのに、悪女は一度も語り手にならずに、彼女を語る男女の証言のみで物語が成立するので、本当のところは彼女はどう考えていたのだろうと憶測が止まらなかったり、語る人によって浮彫りになってくる彼女の像が全く違っていたりするのがとっても面白い作品です。
あらすじ
戦後の高度経済成長期にやり手の経営者として活躍したある女の一生を綴る物語。その「女」、富小路公子が美しいドレスを着たまま転落死をしたところから物語は幕を開けます。彼女はどうして死んだのか。27人の男女へのインタビューから明らかになっていく彼女の「悪女」としての人生。
女としての魅力を存分に使って男を翻弄し、常に計算ずくで手に入れたいものを手に入れてきた頭のいい女は、あの時、あの瞬間どうしてその行動をとり、その言葉を発したのか。読め進めるほどに悪女、公子のずる賢い生き方が分かり、痺れます。きっとあなたも騙される。昭和を生き抜いた強い女の一生をご堪能あれ。
感想
したたかで聡明な公子が己の女としての魅力を余すところなく使い切って、堂々と悪事を働き、堂々と美しく死んでいった壮絶な人生がカッコよかったです。読めば読むほどに彼女の頭の良さが分かる。そんな作品でした。
あの男と仲睦まじく暮らしていたときには、次の展開をもう進めていたのか、とか、この行動の裏には実業家として成功するためのこんな魂胆があったのか、あんなにも美しく綺麗に嘘を付かれると人も騙されるのか、と彼女の計算高い胸のうちがどんどん明らかになっていくのは、すごく面白かったです。
27人からのインタビューの内容で構成されているので、彼女自身の語りがないというのも、彼女のミステリアスさを際立たせていて、最後まで他人から見た彼女というふわふわした実体で終わるのがまた興趣があってよかったですね。
それに、人間って誰もが一つの同じ事象に対してでも見方が違いますし、自分の都合のいいように解釈したり、記憶を塗り替えてしまったり、インタビュアーに対して嘘をついたりします。だから、この物語で組み立てられて私たち読者の頭の中に出来上がった彼女の人生は、たまたま偶然の証言の組み合わせで形作られたものを勝手に解釈しているだけなんですね。インタビューする側の立場で読み進めるので、もっともっと本物の彼女を知りたくなって探りたくなります。
宝石店に女性向けの夢のようなジムに、不動産売買に、レストラン。ここまで手広くやってのけた実業家、公子の凛とした振る舞い。男性を虜にする甘く弱弱しい声と清く正しく生きたいという美しい考え方。常に相手から、世間から、どう思われれば良いかを考えている賢さがすごい。魅力的すぎる!お金、愛、セックス、名誉、子供。すべてを自分のものとした彼女は本当に悪女なのか。
色んな人に読んでほしい有吉佐和子さんの名作です!
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