あらすじ
「名探偵の証明」シリーズの若き名探偵、蜜柑花子の学生生活を描いた学園もののミステリー。様々な事件を快刀乱麻に解決してきたという噂の転校生、蜜柑。そんな蜜柑の力を頼って屋上に訪れた少年、中葉。最初は「もう推理なんてしない。」と断っていた蜜柑でしたが、中葉が推理の披露をするから、それまでの調査を手伝うという条件で、蜜柑は再び探偵としての活動を始めたのでした。高校生という不安定であり、だからこそ多感で豊かな心を持つ彼女たちの間には、感情の縺れから、理由の分からない不可解な出来事が起こっていきます。とってもフレッシュで温かいミステリーです。
感想
このお話の魅力はなんといっても、正義感溢れる真っ直ぐな中葉くんと、辛い過去から自分の感情を内に閉じ込めるようになってしまった将来の名探偵、蜜柑花子が様々な身近な事件を解決していくうちに、成長してゆくところです。
中葉は自分の大きな拠り所であるお姉ちゃん離れをし、自分の新しい目標を見つけて芯のある男の子へと、蜜柑は中葉と事件を解決していくうちに、自分への否定的な感情から少しずつ抜け出していき、明るい部分の垣間見える女の子へと変わっていきます。
「なんにも得がなくても、意味が見出せなくても、やらなきゃいけないことってある。今日まででそれを学んだ。あたしもがんばる」と言った蜜柑は、中葉の真っ直ぐな正義感と人への真っ直ぐな優しさと行動力に強く惹かれ、自分が自分の信じる道をゆく勇気をもらったんじゃないかなと思います。それくらい中葉の人柄は素敵なんです。
「名探偵の証明シリーズ」の語り手の男の子も「正義感」を強く持った子で、そして、そのシリーズは、「名探偵とはどうあるべきか」という難題へ、最終的には損得勘定のない「正義感」から回答を出してゆくものです。
きっと、「高校時代に忘れ物をした感が猛烈に強い」から、「書くことで後悔を昇華してどうにか過去に折り合いをつけたい」という思いで学園ものを執筆している市川哲也さんは、このような純粋で真っ直ぐな人柄を内面にお持ちなのでしょう。そして、仕事、使命、生き方を考える上で、その純粋で真っ直ぐな正義感は、忘れてしまいがちで、でも、多くの人が大切なものだって知っているからこそ、市川哲也さんの本の主人公たちに惹かれてしまうのではないかなーと思います。少なくとも私はそうでした。
もちろん、学校のマドンナであり、中葉の愛するお姉ちゃんの水着が盗まれた事件「みずぎロジック」から始まる事件一つひとつも、一見解けなそうなのに、現場の状況やアリバイ状況から、豊かな想像力を使って謎を解き明かしてゆくのもワクワクしながら楽しめました。気軽に手に取ってポップに読める一冊ながら、推理小説の謎解き手法やトリックの要素が満載で、中学生にもおすすめできる本でありながら、全く物足りないことなんてない楽しいお話です。
個人的には、名探偵になる前の蜜柑の内面を形作った中葉くんとの生活を垣間見ることができたのがうれしかったな~。次は「放課後の名探偵」を読んでみたいと思います。
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